| シッタルーダは父母の愛を一身に
浴びて育ったのですが、生来身体が弱く、寂しさを抱え、人の世の無常、哀しさ、矛盾に気づく感受性の強い少年でした。幼い頃のブッダにはこんな伝説があり
ます。五穀豊穣を祈る祭りに参加した時のこと、王子は農夫が働く姿をじっと見つめていました。泥と汗にまみれて働く農夫は人間の苦しみの姿を王子の心に焼
き付けました。鋤で掘り返された土の中からちょこちょこと虫が這い出てきたため、夢中になってみていると、どこからともなく小鳥が飛んできてあっという間
に虫を加えて飛び上がり、その小鳥に今度はとんびが襲いかかり、つかみ去っていきました。自然界の弱肉強食の現実、そして、人間界の苦の現実を目の当たり
にした王子は愁いに沈み、哀れみの情でいっぱいになり、近くの森の木下で瞑想に入りました。これがブッダ最初の瞑想と言われています。 姿が見えなくなった王子を王たちが探しに行くと、そこに神々しいまでの王子の姿が。。。皆は思わず祈りをささげました。 実の母のいない空虚のせいでしょうか、ブッダには幼い頃から人の世の常ならぬこと、その真の姿を捕らえる感性が備わっていたようです。いつも美しく装い、 全ての汚れから守られ、7歳になった王子は王に必要なあらゆる学問、武術、技芸を身につけていました。ですが、父王は予言されたように、いつか息子が出家 するのではないかと恐れ、早く落ち着かせようと、世にも美しいヤショーダラ姫と王子を結婚させました。 父王の配慮により、2人は不吉なもの、不幸なもの、不浄なものから隔離され、王宮の中で美しい音楽や踊りに囲まれ、何不自由なく日々を過ごしていました。 しかし王子は、心楽しみません。やがて生まれた男の子にラーフラ(束縛)という名をつけました。 ある日王子は王様に外出を願いました。王は道を整備し、通りに立つ人々を厳選して、若く、健康な美しいものたちだけが息子の眼に触れるよう手配しました。 しかし王子は老人、病人、死人を目にしてしまいます。実は、1日も早い出家を願う神々がしむけたのです。 「いつかは死ぬということがわかっているのに、何故みんな平気な顔で生き、のんびりと生活していられるのだろう。」 王子は物思いに沈みます。王宮では王子を慰めようといつにも増して遊びの趣向をこらしました。花が咲き、鳥が飛び交う庭で、美しい女性たちが歌い、楽器を 奏で、舞を舞っては王子に誘いかけます。人々は美酒に酔い、ごちそうは限りなく運ばれてきます。ですが、すべての生き物に病い、老い、死の苦しみがあり、 やがてすべてが消滅するという根源的なこころの悩みを抱えたシッダールタの心は晴れません。日が沈み宴がはねて女たちも帰ると、急に華やいだ雰囲気は失わ れ静まり返りました。その様子を見た王子は、あらためて人生の無常を感じ取り、王宮に戻っていきました。 以来、何を見ても心満たされず、安らぐことのない日々を送っていましたが、ある日、心を鎮めようとひとり森へ入っていきました。木の根元で、修行者が瞑想 していました。 「あなたはどなたですか?」 「私は生と死の問題を解決しようと思い、解脱を求めて出家したものです。生きる苦しみや迷いから開放されて、心の安らぎと不滅の境地を求め、修行している のです」 王子は喜びに震えました。 「私も出家し、生まれ変わり死に変わる輪廻の苦しみから逃れ、不死の道を求めよう」 王宮に戻った王子は父王の部屋に入っていきました。 「父王よ、どうか私の出家をお許しください。私は真の道を求めているのです。真実の安らぎを得たいのです」 王は、これまでの不安が現実となったことを知りました。 「王子よ、そのような思いは捨ててくれ。お前はまだ若い。今はこの世の楽しみを享受して、王家の繁栄を守ってほしいのだ。このような小さな国だ、いつコー サラ国に攻め込まれるか分からない。どうか思いとどまってくれ。そうすればどんな望みでも叶えてあげよう」 「それでは、4つの願いがあります。それを叶えて下さるのなら父王の元にいつまでもとどまります。 1つ目の願いは私の命が決して失せないこと。 2つ目の願い決しては病気にならないこと。 3つ目の願いは決して老いないこと。 4つ目は、決して不幸にならないことです」 「そんな途方も無いことを言うものではない。どれひとつとして人間として願いが叶うものはない」 「では、こうした不安や苦しみを解決するために、私を出家させて下さい」 王はこの後王子の監視を厳しくし、さらなる楽しみを王子に与えよと家臣に命じました。 部屋に戻った王子を、妻のヤショーダラ妃と、幼い息子ラーフラがやさしく出迎えます。 美しく着飾った女たちも、心を尽くして王子の世話します。 真夜中、王子はふと目を覚ましました。足の速い馬丁のチャンナを起こし、出家をするから愛馬のカンタカを連れてくるようにと命じます。そして必死で止める チャンナに言いました。 「私はこれまでの生涯、肉体的喜びを味わってきたが、満足を知ることはできなかった。心の安らぎを求めて出家しようと言う私の意思は不動だ」 王子が馬にまたがると、城門のかんぬきが自然に開き、誰一人目を醒すものはいませんでした。王子は夜明けにアノーマー河のほとりに着き、馬を下り、冠をは ずして言いました。 「これを王に差し上げて、私は苦しみ悩む生きとし生けるもの全ての安らぎのために出家して修行すると申し上げてくれ。悟りを得られないうちは決して戻らな いつもりだと」 さらに身につけている装飾品をはずしました。 「これらは母上とヤショーダラに渡して、私への愛情を捨てるようにと伝えて欲しい」 馬丁チャンナの懇願はついに聞き入れられませんでした。愛馬カンタカも、別れを悟り、哀しそうにしていたと伝えられています。 一人になった王子が修行者にふさわしい衣がほしいと願うと、不思議と向こうから黄褐色のぼろ衣をまとった猟師がやってきたので、衣服を交換してもらいまし た。そして髪を剃り、森の修行者にふさわしい姿になり、シャカ族の王子シッダールタは、ブッダになるべく「目覚めの時」を迎えたのです。 |


上へ戻る
次へ
ホーム